桑
庭に桑の木が植わっている。
植えてから二十年は経っている。
春になると紫色をした実をつけるので楽しみにしていたら、カミキリムシが繁殖して幹が空洞になってしまった。


桑の実 空洞になった桑の幹
台風が来れば倒れかねないので地際部近くで切り倒したところ、一と月ほどすると新たな芽がふいて今では再び繁茂している。
地面近くで幹を切る方法を切り戻しといって再生させる技術の一つで、桑は何度切り戻してもその都度生き返ってくる。
桑畑にいると、カミナリに当たらないという逸話を聞いたことがある。
話のもとになった上州地方は、養蚕が盛んだったうえに雷も多かった。たしかに、強い枝が繁茂するためカミナリすらも通りづらいのだろう。
ほかに、関八州の博徒たちは家の周りに桑を植え、襲われると桑畑の中に逃げ込んだといいます。茂った葉と強い枝のしなりで、追っ手の追撃をかわせたらしい。
桑にまつわる話が多いのは、それだけ桑が身近な存在だったと言えるだろう。
その桑は蚕にとって唯一のエサである。
蚕はなぜか桑の葉だけしか食べない。
おそらく蚕の体が桑だけを消化・吸収できる仕組みになっていて、桑以外の植物のなかには蚕の発育を阻害する物質が含まれていると思われる。
蚕は桑の匂いをかぐと近寄っていき、口の傍にある感覚器で触って桑であることを確認すると、噛んで確かめたうえ、ようやく飲み込んでいる。きわめて用心深く食べている。

一般に、餌になる植物はそれを餌とする昆虫のからだのつくりで決まっている。
だから、たとえ飢死しそうになっても他の植物を食べることはない。
それに卵から孵った子供がすぐに正しい餌にありつけるように、親は餌となる植物に卵を産んでいる。
ただ進化の過程では、何でも食べる虫が現れてもよさそうだが、それは食べられる植物にとって迷惑な話である。
だから植物は自身の成分を少しずつ変えて、そういう虫が出てこないように工夫している。時には毒さえ仕込んで虫をやっつける植物だっている。
しかしそのうち、そうした植物でもこれを食べる虫が現れる。いまの多種多様な昆虫の種類は、そうしたイタチごっこによってできている。

