立ち止まってみてごらん   

 

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   折々の記 100     続・墓じまいの悩み 

 墓じまいをするには、まず永代供養をお願いするお寺を選びついで墓石を撤去する石屋を決めなければなりません。
 
 これが遠方に住む者にとっては結構やっかいなのです。

    全く未知の世界であるうえ実際に現地を見たり顔を合わせたりすることなく電話だけで決めるので、慎重にならざるをえません。

 まず、お寺を決めるにあたって調べていくと、案外多くのお寺が宗旨や宗派に関わらず永代供養を受け入れています。

   とりわけ、HPに力が入っているお寺ほど施設が立派でお値段も高めです。それに街中にあるお寺ほど値段が高く、郊外に行くほど安くなっています。

   そのため手ごろなお値段のお寺をいくつか選んで同じ質問のメールを送ってみました。

   内容は「墓じまいに必要な改葬許可証がないのですが大丈夫ですか」という質問です。

   誠実に回答してくれるお寺があれば、そこに決めようと思ったのです。

   そして選んだのは県庁近くにある小さなお寺でした。

   そのまま決めてもよかったのですが、神戸にいる娘が用事で近くまで行くので、足を伸ばして訪ねてくれるように頼みました。

   お寺にはあらかじめ電話で見学を申し込んでおきましたが、住職に急用ができたらしく娘が訪れるとご母堂が応接してくれたようです。

   その方が穏やかでとても親切だったので「この方のお人柄なら、ここのお寺に問題はないだろう」というので決めました。

    合祀にするか個別納骨にするかは、両親に敬意を表して個別のボックスを選びました。ちょうど寺院のなかに小さな空間を分けてもらったような感じで、暗く湿った石の中から明るく暖かい空間への転居です。

    次いで石屋の選定ですが、こちらはそれぞれのお寺に出入りの石屋があって、お寺とはツーカ―の仲にあります。

   お寺に墓じまいの依頼があると出入りの石屋へ連絡がいき、両者で日程を調整してお性根抜きと墓石の撤去を行っています。
   先にお性根抜きをおこなって後日、石屋が墓石を撤去して取り出したお骨をお寺に運んだりもします。
   また、民間の墓地では差配する石屋が決まっていたりするので、他の石屋が入いるのが難しいこともあります。

   今回はこうした業界の実情を知らないまま先に石屋を決めてしまったのでうまく連携できるか心配しましたが、そこは慣れたもので住職と連絡を取り合ってうまく進めてくれました。

   石屋を先に決めたのは全くの偶然からです。

   お寺の資料を請求したら墓じまいのコンサルから連絡があり無料の見積もりを頼むと請け負ったのが、かつて墓石を購入した石材店だったのです。
   墓地からはずいぶん離れた町にあるお店でしたが、少なからずご縁を感じて決めました。

  こうしてお寺と石屋が決まったところで役場に墓地の返還を申し出たところ、『埋葬届を出されていないので、このままではお骨を動かすことはできません。

  それに届けがないからといって埋葬されてなかったことにもできません。お墓が建っている以上、納骨されていないとは誰も思わないでしょう。
  納骨されていないことにして墓地の返還を受けるのは行政の不作為になります。』とおっしゃる。

  たしかに理屈のうえではそうですが、役場では書類上、誰もお墓に入っていないのでお墓からの改葬はできないはず。

  だから改葬ではなく埋葬にするために埋葬許可証発行済証明書までもらっているのですから。

  でもこのままでは雪隠づめになって身動きがとれなくなります。よくよく話し合った結果、まずは27年前になくなった父の埋葬届に始まり、墓地使用権の承継、改葬許可の申請、墓地の返還申請という一連の手続きをすることになりました。

  そして「墓じまいはこれらの手続きが完了したあとです。」といわれたのです。

  すでに二週間後に墓じまいを予定していただけに思わぬ障害にぶちあたったものです。

  遅れれば遅れるほど梅雨に入って作業は難しくなるため日程はずらしたくありません。

  でも市が送ってくれた申請書類が届かないのです。

  全国どこでも、たとえ普通郵便であっても二、三日で届くと思っていたのに土日をはさんで一週間もかかりました。

  ようやく手元に届いて速達で送り返してみると翌日の夕方には着いているのです。

  たしかに速達の料金に見合う納得の早さです。が、それにしても料金の割に差がありすぎでしょう。

 この速達が功を奏したのと役場の担当者が急いでくれたのでなんとか間に合って、無事に墓じまいを済ますことができました。

  ただ、体調面でその場に立ち会えなかったのは残念ですが、お寺も石屋も「任せていただければきちんとやります」と言ってくれたのには助かりました。

  それに近くに住む従弟も話しを聞いて立ち会ってくれました。
  世の中にはまだまだ善意の人たちが多くいるものです。

  戦後、高度経済成長のおかげで人々が田舎から都会へ移り住み、それぞれが核家族化して家やお墓をもつようになりました。
  さらにその子供たちがよそへ移り住んで家やお墓を建てだすと、遠く離れた祖先の墓はもちろん親の墓さえ疎遠になっていきます。

  ですから、これからはそれぞれがお墓を建てるのではなく、当初から永代供養にしておくのも有力な選択肢でしょう。

  それにお世話できないお墓があれば、今のうちに整理して次の世代に先送りしないことが、団塊の世代の最後のおつとめなのかもしれません。