秋分の日とおはぎ
秋分(9月23日〜10月7日)を過ぎたあたりから月の光が煌々とさえわたり、お月見にちょうどよい季節を迎えます。
大陸から冷たく乾燥した風が吹き始め、大気中の水蒸気が減って空が高くなって月がくっきり見えはじめます。
秋は立秋に始まっていても、本当の秋を感じるのは秋分の日からでしょう。
秋分の日はお彼岸の中日でもあり、お墓参りにいく人で墓地のまわりは線香の匂いにつつまれます。
お盆のときはご祖先さまがこの世にもどって来られますが、お彼岸には三途の川をはさんで向こう岸(ぎし)、つまり彼岸(ひがん)までやって来こられて川をはさんで会う日です。
子供のころは、『向こう岸のご先祖さまを大勢の中から見つけるのは大変だ』とか『混みあって三途の川に落ちやしないか』 といった妙な心配をしたものです。
お彼岸につきものは、『おはぎ』です。
母方の墓参りには親戚が多く集まるのでお盆にべチャッとした黒い『おはぎ』が並べられます。ベチャッというのは、その形が少しくずれた黒っぽい固まりを形容したもので、皆はそれをボタ餅と呼んでいました。だからボタ餅と聞くとあまりよい印象がないのです。
ただ、ボタ餅は『おはぎ』ともいわれます。
『おはぎは粒あん、ボタ餅はこし餡』という人もいれば、『秋に食べるのがおはぎ、春に食べるのがボタ餅』という人もいます。
どちらも同じものですが、お店では『おはぎ』の名で売っています。
年をとると、このおはぎが妙に懐かしいときがあります。近くの店で買い求めていましたが、ある日、粒あんのおはぎが姿を消えたのです。
かわりに、こし餡を薄く塗ったような『おはぎ』が並んでいるのです。
『おはぎ』は粒餡だと信じていたので、これには衝撃を受けました。
ちょうど、樹木希林さんが主演の『あん』という映画を見たこともあり、それなら自分でおはぎを作ろうと思いたったのです。
餡のもとになる小豆には、大納言と通常のアズキがあります。
大納言は煮崩れしにくく上品な粒あんになりますが、粒々感がつよすぎるので、豆が煮崩れしやすい普通のアズキを使います。
一晩、水に浸けたアズキを中火で30分ほど煮たら一度煮汁を捨てて新たな水に入れ替え、ふたたび1時間ほど煮ます。
この段階でアズキはだいぶ柔らかくなっています。
浮かんでくる軽いアズキは取り除き、さらに30分ほど煮詰めると『ピチピチピチ』という音がしてきます。良いころあいだ ! という豆の合図です。
そうなると火加減は弱火に落とし、砂糖を加えながら焦げつかないように木ベラでゆっくりとかき回します。15分ほど練ったら、バットなどに小分けにして、余熱がとれたら冷蔵庫で保管します。
つぎは、餡でつつむ御餅の制作です。
もち米とうるち米を5:5の割合で炊いたものをよく混ぜて、こねて丸めて形をととのえたのち、粒あんで包めばおはぎの完成です。
このおはぎは、いくら食べても胃を悪くすることがありません。 それに買っていたものより美味しいので、それからは店で見かけても食指が動かなくなりました。
中秋の名月は9月21日です。彼岸の入りの翌日になります。お墓参りをしたあとに『おはぎ』を食べながらお月見を楽しむのも良いでしょう。
お彼岸の中日である9月23日よりもすいているので、人込みに押されて三途の川に落ちる心配もありません。
