折々の記 17

 温州みかん

   11月も半ばを過ぎると、近所の店屋でも早生の温州みかんが並び始めました。おかげで産地に行かずとも買えるようになりました。求めているのは通称、黒箱といわれる「日の丸みかん」です。 他にも色々な産地のみかんが競うように並んでいます。
   長年、食べてきたので見ただけで甘いかどうかは分かります。甘いものは軸(枝の切り口)が太く、皮は薄くて少し赤味を帯びています。さらにお尻の部分がへこんでいればまちがいありません。
 
                       宮川早生
  みかんのシーズンは、11月の「宮川早生」、12月の「南柑(なんかん)20号」、年明けからは「青島」といった品種が続くので、みかんに不自由することはありません。こうしたみかんは、みな枝変わりで生まれています。'枝変わり'とは枝の一部に突然変異が起こり、別の特徴をもった品種が生まれることです。果樹の世界ではめずらしくありません。
 
                    南柑20号
    「宮川早生」や「青島」といった品種は篤農家の宮川さんや青島さんが園地を見回って枝変わりを見つけ、品種になったもの。 枝変わりが起こるのは4 万本の樹のうちで一本の樹のなかの一枝にでるくらい。それが優れたものである確率はさらに低くくなり、品種にできるのはかなりの運が必要です。
   一般に、新しい品種を作るには優れた親同士を交配させ、できた種から良いものを選抜していきますが、温州みかんではその方法が使えません。そもそもみかんには種ができないし、そこを何とか工夫して受粉・交配できたとしてもなぜか種はすべて母親のコピーになるのです。
   温州みかんには雌しべの中に胚が7から8個もできるので、これらが受精してもなぜか発育不良になってしまいます。一方、受精できなかった胚は単独で発育して種をつくります。その種をいくら播いても母親の遺伝子だけなのでコピーしか現れないのです。だから突然変異の枝変わりを見つける方がてっとり早いということになるのです。
   温州みかんは地球上に現れてからずっと母親のコピーをつないできた筋金入りの母系家族です。そこには父親の影も形もありません。
 それでも美味しいみかんが食べられるなら女性優位の母系社会も悪くない気がします。